先に結論から:CI/CIS プロジェクトの多くは、デザインの出来映えではなく、発注時に納品物を明記しなかった・検収で誰も確認しなかった・引き継ぎ後に管理する人がいなかった、という理由で失敗します。この表は発注側(官公庁・学校・病院・財団法人)のための実務ツールであり、デザインの教科書ではありません。六つの段階があり、各段階で問うべきことは一つ、あとは業者が何を出してきたかを見て、問題の兆候に注意するだけです。内容は手心設計事務所が国家図書館(台湾)、台南市立図書館 本館、国立故宮博物院 南部院区などの公共部門プロジェクトで実際に得た経験をまとめたものです。
この表は発注側のためのもので、デザインの教科書ではありません。デザインの知識がなくても、各段階で何を問い、何を見るかが分かれば十分です。
なぜ十八のチェックポイントが必要か
第三者が検収できてはじめて品質と言えます
手心は、良いデザインは哲学・科学・美学の交点に立ち、それぞれ品格・品質・品味に対応すると考えています。この表が存在する理由は単純です。デザインの品質をデザイナーだけが決めるなら、それは品質ではなく、ただの言い分にすぎません。
科学 → 品質
六つの段階と十八のチェックポイントは、いずれも「実物を出して照合できるもの」です。デザインの知識がない担当者でも、この関門を通過したかどうかを判断できます。
哲学 → 品格
検収基準を公開することは、自分たちを縛ることでもあります。それでも公開するのは、発注側が基準を読めてはじめて、双方が終盤になって認識のずれに気づく事態を避けられるからです。
美学 → 品味
チェックポイントで守れるのは品質までで、品味(センス)は守れません。ですから各段階では実際の成果物を必ず見てください。チェック欄だけでは足りません。この表は守りであって、目標ではありません。
三つが統合されてはじめて、良い成果物と成果が生まれます。この表は手心と協働していない方でもお使いいただけます。詳しい説明は手心についてをご覧ください。
この表の使い方——四つのタイミング
- 発注前:第 1・2・3 段階の「業者が提出すべきもの」を、入札文書の仕様書にそのまま書き込みます。書き込んではじめて、業者に提出義務が生じます。
- 提案審査時:「不合格のサイン」欄を一項目ずつ照合します。一つでも該当すれば追加提出を求めてください。契約後に気づくのでは遅すぎます。
- 検収時:六つの段階を一つずつ照合します。とくに第 5・6 段階です。多くの案件はここで頓挫します。デザインで頓挫するのではありません。
- 引き継ぎ時:第 6 段階は個人ではなく常設の部署に引き継ぎます。担当者は異動しますが、制度は異動しません。
第 1 段階:コンセプトの確定
コンセプトの確定
業者が提出すべきもの
- CI 計画の目的と効果の説明
- 導入の重点と実行評価の方法
- CI 委員会の名簿(決裁層を必ず含む)
不合格のサイン
- 「マーク 1 点のデザインで X 元」という見積もりしか出てこない
- なぜ実施するのかを誰も尋ねてこない
- 委員会に決裁できる人がいない
手心の実例|国家図書館(台湾) ブランド合意ワークショップ手心は国家図書館の一級管理職および部門横断の代表 30 名と、6 時間・6 グループのブランド合意ワークショップを実施しました。カード型の対話ツールを用い、決裁層自身にブランドの方向性を語ってもらう——これが「委員会に決裁層を必ず含める」ことの実際のやり方です。事例の全文を見る →
第 2 段階:実態調査
実態調査
業者が提出すべきもの
- 首長・経営層へのインタビュー
- 上級管理職の合意形成会議
- 全職員調査
- 外部認知調査
- 既存ビジュアル資産の棚卸し
不合格のサイン
- インタビューを一切行わずに提案してくる
- 「経験が豊富なので調査は不要です」
- 管理職にだけ聞いて、現場の職員に聞いていない
手心の実例|国家図書館(台湾)全職員アンケート国家図書館の調査票は管理職だけでなく全職員に配布しました。毎日利用者と向き合う現場の司書がブランドをどう捉えているか——それが機関の実像です。関連事例:高雄ブランド戦略シンクタンク CIS →
第 3 段階:イメージ戦略
イメージ戦略
業者が提出すべきもの
- ビジョン・ミッション・ブランドポジショニング
- 市場・サービス戦略
- スローガン
- コミュニケーション戦略
- 同種機関のベンチマーク分析
不合格のサイン
- ポジショニング文がどの機関に置き換えても成立する
- スローガンが形容詞の羅列にすぎない:専門的、先進的、卓越
- 同種機関との比較を一度も行っていない
手心の実例|国家図書館(台湾)のベンチマーク分析国家図書館の案件では、まず国内外の図書館の識別システムを分析し、傾向を把握すると同時に類似を避けました。さらに改訂に失敗した二つの事例を研究し、他者の教訓を自らの前提に変えています。関連事例:台南市立図書館 本館 CIS →
第 4 段階:デザイン展開
デザイン展開
業者が提出すべきもの
- 全体の識別コンセプト
- VI 視覚識別システム(最小サイズ・単色・白抜き版を含む)
- EI 環境識別
- BI 行動識別の教育研修教材
- 六種類の応用システム:公式サイトとデジタル/印刷物/公文書・公告/イベントと広報物/公共サイン/バリエーション応用
不合格のサイン
- きれいなイメージ提案図しかない
- 最小サイズ・単色・白抜き版がない
- favicon ほどの小ささで一度も検証していない
手心の実例|視認距離の三層遠くでは色、中距離では図形、近づいてはじめて文字を認識します——識別は三つの距離すべてで成立する必要があります。国家図書館の案件では favicon サイズでの実地検証も行いました。提案資料の大きな図版だけを見て判断してはいません。
第 5 段階:完成と導入
完成と導入
業者が提出すべきもの
- 内部周知の手順
- 対外的な情報発信
- 実務担当者の教育(教材または動画)
- 全面展開計画
不合格のサイン
- 規範書を一冊納品して終わりにする
- 担当者に使い方を教える人がいない
- いちばん多く印刷する封筒が、出来上がると崩れている
手心の実例|実務担当者向けの教育動画国家図書館の案件では実務担当者向けの教育動画を制作しました。規範書だけではすべての担当者を支えきれません。動画があってはじめて、実際に手を動かす人がそのとおりに作れます。導入とは納品ではなく、次の担当者にも同じものが作れる状態にすることです。関連事例:台南市立図書館の応用アイテムデザイン →
第 6 段階:監督と評価
監督と評価
業者が提出すべきもの
- 常設の CI 管理委員会
- 制作物の監督メカニズム
- 定期評価の実施要領
- 効果測定の指標
- 対外的な使用許諾ルール(誰が使えるか、どう申請するか)
不合格のサイン
- 常設の管理部署がない
- 不適合な使用を却下する権限を持つ人がいない
- 首長が交代するたびに作り直す
国際比較|ペルー vs アルゼンチンペルーの国家ブランドは一つの制度を十五年続け、国民に無償で使用を許諾しています。アルゼンチンは十七年で四回変更しました。公共機関のブランドで最も難しいのはデザインではなく、次の館長を越えて生き残らせることです。関連事例:国立故宮博物院 南部院区 サインシステム計画と設置 →
仕様書にそのまま貼れる条項案
以下の六条は上記の六段階に沿って整理し、入札文書の文体で書いています。仕様書や契約附属書にそのまま貼り付けられます。機関の法務・調達部門が政府調達法および機関の規定に従って審査・修正してください。企業の調達では「機関」を「甲」に置き換えれば使えます。
- 納品物:業者は六段階に従い、次の成果を納品するものとする。(1) CI 計画の目的と効果の説明、(2) 首長・職員インタビュー記録、全職員調査および外部認知調査報告、(3) ビジョン・ミッション、ブランドポジショニングおよび同種機関のベンチマーク分析、(4) 視覚識別システム(マークの最小サイズ・単色・白抜き版、ロゴタイプ、カラー、補助グラフィック、応用アイテムのデザインを含む)、(5) ブランド規範書および実務担当者向け教育教材(動画を含む)、(6) 監督・評価要領の提案書。
- 主要人員:業者はプロジェクト責任者 1 名を指名し、全期間を通じて参画させ、各段階の確認会議に出席させるものとする。主要人員の変更は機関の同意を要し、同等の経歴を有する者が引き継ぐものとする。
- 確認ノードと変更:各段階の終了時に、機関が指定する決裁者の書面による確認を得たのち、次の段階に進むものとする。コンセプトの方向性が確認された後の変更は範囲変更とみなし、日程と費用は双方で別途協議する。
- 検収:機関は次の項目について検収を行うことができる。(1) ブランドポジショニング文を同種機関の名称に置き換えると成立しなくなること、(2) マークが最小サイズ・単色・白抜きの状態でも識別できること、(3) 最も多く使用する応用アイテム(封筒、公文書の 1 ページ目、プレゼン資料など)を抜き取り検査し、規範書と一致すること、(4) 実務担当者向け教育教材により、本件に参加していない者が単独で作業できること。
- 著作権と原本データ:本件成果の著作財産権は機関に帰属する(または機関の規定に従い許諾範囲を定める)。業者は編集可能な原本データ(ベクターファイル、フォントのライセンス説明、カラー数値)と最終 PDF を納品するものとする。
- 導入と保証:業者は納品後 [__] か月間の導入コンサルティングを提供し、規範の解釈と応用アイテムの審査について意見を述べるものとする。当該期間中に規範書の誤りや漏れが判明した場合、業者は無償で修正する。
この六条は出発点であり、ひな型の全文ではありません。各案件の予算・日程・支払条件は、機関の規定に従って別途定めてください。
よくある質問
CI/CIS の発注仕様書には、どの納品物を書くべきですか。
第 1 段階から第 3 段階の「業者が提出すべきもの」をそのまま仕様書に書き込めば十分です。CI 計画の目的と効果の説明、CI 委員会の名簿(決裁層を必ず含む)、首長・職員インタビュー、全職員調査、外部認知調査、既存ビジュアル資産の棚卸し、ビジョン・ミッションとブランドポジショニング、同種機関のベンチマーク分析が含まれます。第 4 段階の VI 視覚識別システムについては、最小サイズ・単色・白抜き版を必ず含めることを明記してください。明記しないと、納品後にこの数種が欠けている場合が多くあります。
デザイン業者の提案が不合格かどうか、どう判断しますか。
最も速い判断基準は三つです。一、見積もりに「マーク 1 点のデザインで X 元」としか書かれていない場合、相手は CI をロゴ案件として受けています。二、提案前にインタビューも調査も行わずに視覚案を出してくる場合、戦略は推測です。三、ポジショニング文の機関名をどの同種機関に置き換えても成立する場合(たとえば「当館」を隣県の図書館に置き換えても文章が通る場合)、差別化がありません。一つでも該当すれば追加提出を求め、契約後に対応するのは避けてください。
CI プロジェクトの検収で最も問題が起きやすいのはどの段階ですか。
第 5 段階(完成と導入)と第 6 段階(監督と評価)です。多くの案件はここで頓挫します。デザインで頓挫するのではありません。典型的なのは、業者が規範書を一冊納品して案件を終え、担当者に使い方を教える人がおらず、結果としていちばん多く印刷する封筒や公文書の 1 ページ目が崩れてしまう、という状況です。検収時には実務担当者向けの教育(教材または動画)と全面展開計画を必ず求め、いちばん安く、いちばんよく使う応用アイテムを実際に抜き取り検査してください。
機関が CI を行う際、なぜ委員会が必要ですか。委員会には誰が入るべきですか。
CI は機関の対外的な全体像に関わり、複数の部署をまたぐため、部門横断の合意がなければ特定の課の案件になってしまいます。委員会には決裁できる決定層を必ず含めてください。委員会に最終決定できる人がいなければ、案件は提案段階で堂々巡りになります。手心は国家図書館の案件で、一級管理職 30 名と 6 時間のブランド合意ワークショップを直接実施し、決裁層が同じ部屋で合意を形成しました。
CI を導入した後、首長が交代するたびに作り直す事態をどう避けますか。
鍵は第 6 段階です。常設の CI 管理委員会を設置し(個人ではなく部署に委ねます)、制作物の監督メカニズムと定期評価の実施要領を整え、対外的な使用許諾ルールを定めます。「この使い方は不適合であり、当機関のマークは使えません」と言える権限を持つ人が必要です。国際的な比較は明快です。ペルーの国家ブランドは一つの制度を十五年続け、アルゼンチンは十七年で四回変更しました。
このチェックリストは民間企業にも使えますか。
使えます。ただし第 6 段階の重点が変わります。公共部門の課題は首長交代による断絶ですが、企業の課題は多くの場合、各事業部がばらばらに動くことです。六段階の論理(まずコンセプトを確立し、次に調査し、戦略を定め、そこではじめてデザインを展開し、導入し、最後に監督する)は、どの規模の組織にも当てはまります。違いは委員会の構成と、使用許諾ルールの書き方です。
CI や識別システムのプロジェクトを発注する準備をしていますか。
貴機関・貴社の状況をお聞かせください。手心は、この案件の仕様の書き方、確保すべき予算、削ってはいけない項目を率直にお伝えします。このガイドはご連絡なしに印刷・転送していただいて構いません。仕様と予算の書き方を相談したい場合は、ご要望をお送りください。初回のご相談は無料です。
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